安易なヒールにご用心

2006.02.26

プロンテラ第三師団衛生兵看護教育隊隊長、Masman氏は怪我人に対するアコライト・プリーストの安易なヒールは避けるべきだと警笛を鳴らしている。

ヒールとは負った傷を癒す神の奇跡と言われる技術だが、Masman氏によれば、骨折などの場合折れた状態のまま骨がくっついてしまう事があり、非常に危険だと言う。また、傷口の消毒を行わないまま傷口を塞いでしまえば一見怪我が治ったように見えても、後で怪我人の身体を蝕んでいくケースが多い。プリーストはあくまで聖職者であって、教会では治療技術を教えないので仕方の無い事だが、ヒールを使用して人を癒す聖職者はまず基本的な技術を身に付けるべきだろう。

そして最も恐ろしいのは、ヒールは人の心を蝕んでしまう事だとMasman氏は指摘する。

プリーストのヒールを期待して、普通ならばしないような無茶をした経験は無いだろうか。怪我を承知で大勢のモンスターを挑発し、ヒール一つでその怪我を済ませようと思った事は無いだろうか。高位のプリーストともなると切断された四肢を接合したり、致命傷を癒す事が出来る。ヒールの存在は確かに命を賭けて戦う戦士達に取っては素晴らしい存在だが、逆にそれによって自らの傷を軽んじてしまいがちな傾向がある。時には、相手の命すら。

それがエスカレートしたのか、最近は拷問にもヒールが使われるケースが多くなった。「どこまでなら殺さずに痛めつけることが出来る」という事を熟知した拷問のプロがヒールを覚えたら……それは考えただけで悪夢だ。拷問を受ける者は何度でもその苦痛を体験することが出来る。

別の問題もある。
戦争で負傷した兵士は、己の身に死の恐怖を刻み込んだまま前線から戻ってくる。通常であればゆっくりと時間をかけてその心と身体の傷を癒すのだが、ヒールによって早く完治してしまえばその恐怖を抱えたまま戦地に戻ることになる。そして兵士たちは精神を蝕んでいくのだ。一方の治療するアコライト・プリースト達も、自分が救った命が再び戦場に赴き誰かの命を奪うのを見て、自分は間接的に人を危めてしまっているのでは無いかと苦悩する者も多いようだ。

「怪我を承知で戦いを挑むのは一流のファイターとは呼べない。被害は最小限に食い止めるのがプロだ。ヒールを施すのは極力控え、命に別状の無い怪我であれば消毒と縫合で済ませ、迂闊な怪我人にはその痛みを存分に味わってもらいながら次からもう無茶はしないと思わせる事が重要だ。」と、Masman氏は最後にそう締めくくった。

だが、ヒールは治療期間の短縮と治療費のコストダウン、そして何より怪我によって戦闘不能となった者を早く前線に戻すことによる戦力の安定供給を齎す。ヒールのある部隊に所属する兵士50人は、実質100人分の戦力があると言われる程だ。このような状況の上でモンスターとの戦いが激化する今日、Masman氏の願いは果たして届くのだろうか。


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